Adobe社が規制当局に承認されずFigma社の買収撤回!
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Adobe社がFigma社を買収した狙い
まずは、アメリカの大手ソフトウェアメーカーAdobe社が、同業者であるFigma社を買収した経緯について簡単に振り返ります。
競合企業を買収した理由
2022年9月、Adobe社はFigma社を200億ドル(当時のレートで約2兆8,700万円)で買収することを発表しました。
Adobe社は1982年に設立されたアメリカの大手デザイン系ソフトウェアメーカーで、PDF閲覧ソフト「Acrobat」や写真加工ソフト「Photoshop」などが世界中で使われています。
一方、Figma社は2012年に設立された企業です。インターネットのブラウザを使い、クラウド上で複数人が共同で編集できるデザインプラットフォーム「Figma」を開発し、多くの企業で採用されています。さらに、2020年のコロナ禍をきっかけに、リモートで協業ができる「Figma」は大きな注目を集めました。
実は、Adobe社にも「Adobe XD(以下XD)」というデザインソフトがあります。Figmaとは違い、パソコンにダウンロードして使うアプリケーションですが、Figmaと同様にインターネット上でデータを共有したり、共同作業したりできます。
コロナ禍をきっかけに、Figmaはリモートでの共同作業に向いていることからデザイナー以外の職種の人々からも支持を集めました。中でも、XDからFigmaに乗り換える人が多数現れ、Adobe社はFigma社の買収を決断します。買収後は、XDとFigmaを統合しようと考えていたようで、2023年1月にXDのソフト単体販売が突然終了されました(2023年2月以降、Adobe社の複数ソフトがクラウド上で使える「Creative Cloud」でXDが提供されている)。
Adobe社の企業戦略とは
Adobe社はこれまでも、自社の競合企業あるいは未進出分野の企業を数多く買収し、事業規模を拡大してきました。
2005年には、ソフトウェアメーカーのマクロメディア社を買収しました。マクロメディア社はAdobe社と競合するソフトウェアを数多く出していましたが、買収されたあとはAdobe社の製品群に取り込まれました。
近年、Adobe社は製品のクラウド化・サブスクリプション化を進めており、2013年にはPhotoshopやIllustratorなどの自社ソフトを、クラウド上で利用するサブスクリプションサービスに移行しました。
Adobe社はFigma社を買収することで、XDの強力なライバルであるFigmaを統合できるうえに、自社ソフトのクラウド化・サブスクリプション化をさらに推し進められるのです。
独占禁止法によるM&Aの規制
Adobe社によるFigma社買収が発表されたあと、アメリカ・イギリス・EUでM&Aなどの規制当局が相次いで、独占禁止法違反の疑いで調査を開始しました。
Adobe社が買収発表後、撤回するまでの流れや、独占禁止法とM&A規制について見てみましょう。
Figma社買収は反トラスト法(独占禁止法)違反に該当するのか
Adobe社によるFigma社買収は、アメリカ・イギリス・EUの規制当局によって独占禁止法違反、または「競争を妨げる恐れがある」と判断され、Adobe社は2023年12月に買収を断念しました。Adobe社が買収を発表した2022年9月から、買収を断念した2023年12月までの流れを見てみましょう。
2022年9月、Adobe社はFigma社の買収額200億ドルについて、現金と株式交換で支払い、2023年中に手続きを完了させる見込みとしていました。買収にあたっては、日本の独占禁止法にあたる「反トラスト法」に抵触しないか、規制当局から承認を得る必要があります。
2023年2月、反トラスト法の執行機関であるアメリカ司法省が、Adobe社のFigma社買収は反トラスト法違反であるとして、訴訟を準備していることが明らかになりました。さらに、5月にはイギリスのCMA(競争・市場庁)、7月にはEUの欧州委員会が調査を実施し、いずれも「Figma社買収はデザインソフトウェアの市場において、Adobe社の独占状態を生み出す懸念がある」との見解を示しました。
また、日本の公正取引委員会も2023年4月、Adobe社によるFigma社の買収について企業結合調査を行っており、この買収が競争に与える影響について第三者からの意見・情報を求めることをアナウンスしました。
日米の独占禁止法とM&A
Adobe社によるFigma社の買収では、アメリカ・イギリス・EUの規制当局から反トラスト法(日本では独占禁止法)に抵触しているという指摘がありました。また、日本の公正取引委員会も調査を行っていました。
ここで、日本における独占禁止法を中心に、法律によるM&A(買収・合併)規制について簡単に見ておきましょう。
なお、クロスボーダーM&Aを行う場合は、M&Aに関わる各企業が所在する各国の法律に従う必要があります。
(1)独占禁止法による規制
独占禁止法は、市場における公正・自由な競争を定めた法律です。M&Aの手法のうち、株式譲渡や事業譲渡、合併などの方法を用いると、特定の企業による寡占が生まれる可能性があるため、独立禁止法で規制されています。これを「企業結合規制」といいます。
企業結合規制には「実体規制」「届出規制」の2タイプがあります。
- 実体規制…一定の市場において、実質的に競争を制限するようなM&Aは禁止
- 届出規制…特定の規模以上の企業がM&Aを行う場合、M&A実施前に公正取引委員会へ届出をして、審査を受ける
(2)アメリカにおける規制
日本の独占禁止法に相当する法律として、アメリカには「反トラスト法」があります。反トラストは「シャーマン法」「クレイトン法」「連邦取引委員会法」の総称です。司法省反トラスト局と連邦取引委員会、各州の司法長官が取り締まっています。
- シャーマン法…不当な取引制限や独占を禁じる
- クレイトン法…シャーマン法違反を予防する性質を持つ。企業結合の規制など
- 連邦取引委員会法…不当な競争方法の禁止、連邦取引委員会の権限を定める
M&Aを行うにあたり、買収する側とされる側それぞれに売上高や総資産額、買収する株式や資産に一定の基準が設けられ、基準を上回る場合は当局への事前届出が必要になります。
Adobe社のFigma社買収断念後
2023年11月に独占禁止法(反トラスト法)に抵触する可能性を指摘されたAdobe社は、アメリカ司法省やイギリスCMA、欧州委員会と協議を行い、Adobe社のさまざまなソフトがクラウド上で利用できる「Adobe Creative CloudにFigmaを含めない」「XDを売却する」といった妥協案を提案し、買収を実現させようと動きました。
しかし、そうした提案が規制当局には受け入れられず、承認を得るのは難しいと判断したAdobe社は、12月に買収を撤回しました。Adobe社は、Figma社に契約解除料として10億ドル(1,400億円)を支払うことになります。
まとめ
Adobe社が競合するFigma社を買収する計画は、アメリカ・イギリス・EUの規制当局によって承認を得られませんでした。競合を買収することで市場で有利な位置を目指すという行為は、自由競争市場の精神に反し、消費者に不利益をもたらすことになります。
M&Aが盛んに行われている今、M&Aが市場や消費者に及ぼす影響についても、思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
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