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Adobe社が規制当局に承認されずFigma社の買収撤回!

Adobe社が規制当局に承認されずFigma社の買収撤回!

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2023年12月、アメリカのソフトウェアメーカー・Adobe(アドビ)社が、Figma(フィグマ)社の買収を断念したと報道されました。買収断念の背景には、欧米の規制当局から独占禁止法違反の疑いをかけられたことがありました。
  ここでは、Adobe社による買収と独占禁止法によるM&A規制について解説します。

Adobe社がFigma社を買収した狙い

まずは、アメリカの大手ソフトウェアメーカーAdobe社が、同業者であるFigma社を買収した経緯について簡単に振り返ります。

競合企業を買収した理由

2022年9月、Adobe社はFigma社を200億ドル(当時のレートで約2兆8,700万円)で買収することを発表しました。
 

Adobe社は1982年に設立されたアメリカの大手デザイン系ソフトウェアメーカーで、PDF閲覧ソフト「Acrobat」や写真加工ソフト「Photoshop」などが世界中で使われています。
 

一方、Figma社は2012年に設立された企業です。インターネットのブラウザを使い、クラウド上で複数人が共同で編集できるデザインプラットフォーム「Figma」を開発し、多くの企業で採用されています。さらに、2020年のコロナ禍をきっかけに、リモートで協業ができる「Figma」は大きな注目を集めました。
 

実は、Adobe社にも「Adobe XD(以下XD)」というデザインソフトがあります。Figmaとは違い、パソコンにダウンロードして使うアプリケーションですが、Figmaと同様にインターネット上でデータを共有したり、共同作業したりできます。
 

コロナ禍をきっかけに、Figmaはリモートでの共同作業に向いていることからデザイナー以外の職種の人々からも支持を集めました。中でも、XDからFigmaに乗り換える人が多数現れ、Adobe社はFigma社の買収を決断します。買収後は、XDとFigmaを統合しようと考えていたようで、2023年1月にXDのソフト単体販売が突然終了されました(2023年2月以降、Adobe社の複数ソフトがクラウド上で使える「Creative Cloud」でXDが提供されている)。

Adobe社の企業戦略とは

Adobe社はこれまでも、自社の競合企業あるいは未進出分野の企業を数多く買収し、事業規模を拡大してきました。
 

2005年には、ソフトウェアメーカーのマクロメディア社を買収しました。マクロメディア社はAdobe社と競合するソフトウェアを数多く出していましたが、買収されたあとはAdobe社の製品群に取り込まれました。
 

近年、Adobe社は製品のクラウド化・サブスクリプション化を進めており、2013年にはPhotoshopやIllustratorなどの自社ソフトを、クラウド上で利用するサブスクリプションサービスに移行しました。
 

Adobe社はFigma社を買収することで、XDの強力なライバルであるFigmaを統合できるうえに、自社ソフトのクラウド化・サブスクリプション化をさらに推し進められるのです。

独占禁止法によるM&Aの規制

Adobe社によるFigma社買収が発表されたあと、アメリカ・イギリス・EUでM&Aなどの規制当局が相次いで、独占禁止法違反の疑いで調査を開始しました。
 

Adobe社が買収発表後、撤回するまでの流れや、独占禁止法とM&A規制について見てみましょう。

Figma社買収は反トラスト法(独占禁止法)違反に該当するのか

Adobe社によるFigma社買収は、アメリカ・イギリス・EUの規制当局によって独占禁止法違反、または「競争を妨げる恐れがある」と判断され、Adobe社は2023年12月に買収を断念しました。Adobe社が買収を発表した2022年9月から、買収を断念した2023年12月までの流れを見てみましょう。
 

2022年9月、Adobe社はFigma社の買収額200億ドルについて、現金と株式交換で支払い、2023年中に手続きを完了させる見込みとしていました。買収にあたっては、日本の独占禁止法にあたる「反トラスト法」に抵触しないか、規制当局から承認を得る必要があります。
 

2023年2月、反トラスト法の執行機関であるアメリカ司法省が、Adobe社のFigma社買収は反トラスト法違反であるとして、訴訟を準備していることが明らかになりました。さらに、5月にはイギリスのCMA(競争・市場庁)、7月にはEUの欧州委員会が調査を実施し、いずれも「Figma社買収はデザインソフトウェアの市場において、Adobe社の独占状態を生み出す懸念がある」との見解を示しました。
 

また、日本の公正取引委員会も2023年4月、Adobe社によるFigma社の買収について企業結合調査を行っており、この買収が競争に与える影響について第三者からの意見・情報を求めることをアナウンスしました。

日米の独占禁止法とM&A

Adobe社によるFigma社の買収では、アメリカ・イギリス・EUの規制当局から反トラスト法(日本では独占禁止法)に抵触しているという指摘がありました。また、日本の公正取引委員会も調査を行っていました。
 

ここで、日本における独占禁止法を中心に、法律によるM&A(買収・合併)規制について簡単に見ておきましょう。
 

なお、クロスボーダーM&Aを行う場合は、M&Aに関わる各企業が所在する各国の法律に従う必要があります。

(1)独占禁止法による規制

独占禁止法は、市場における公正・自由な競争を定めた法律です。M&Aの手法のうち、株式譲渡や事業譲渡、合併などの方法を用いると、特定の企業による寡占が生まれる可能性があるため、独立禁止法で規制されています。これを「企業結合規制」といいます。
 

企業結合規制には「実体規制」「届出規制」の2タイプがあります。
 

  • 実体規制…一定の市場において、実質的に競争を制限するようなM&Aは禁止
  • 届出規制…特定の規模以上の企業がM&Aを行う場合、M&A実施前に公正取引委員会へ届出をして、審査を受ける

(2)アメリカにおける規制

日本の独占禁止法に相当する法律として、アメリカには「反トラスト法」があります。反トラストは「シャーマン法」「クレイトン法」「連邦取引委員会法」の総称です。司法省反トラスト局と連邦取引委員会、各州の司法長官が取り締まっています。
 

  • シャーマン法…不当な取引制限や独占を禁じる
  • クレイトン法…シャーマン法違反を予防する性質を持つ。企業結合の規制など
  • 連邦取引委員会法…不当な競争方法の禁止、連邦取引委員会の権限を定める

 

M&Aを行うにあたり、買収する側とされる側それぞれに売上高や総資産額、買収する株式や資産に一定の基準が設けられ、基準を上回る場合は当局への事前届出が必要になります。

Adobe社のFigma社買収断念後

2023年11月に独占禁止法(反トラスト法)に抵触する可能性を指摘されたAdobe社は、アメリカ司法省やイギリスCMA、欧州委員会と協議を行い、Adobe社のさまざまなソフトがクラウド上で利用できる「Adobe Creative CloudにFigmaを含めない」「XDを売却する」といった妥協案を提案し、買収を実現させようと動きました。
 

しかし、そうした提案が規制当局には受け入れられず、承認を得るのは難しいと判断したAdobe社は、12月に買収を撤回しました。Adobe社は、Figma社に契約解除料として10億ドル(1,400億円)を支払うことになります。

まとめ

Adobe社が競合するFigma社を買収する計画は、アメリカ・イギリス・EUの規制当局によって承認を得られませんでした。競合を買収することで市場で有利な位置を目指すという行為は、自由競争市場の精神に反し、消費者に不利益をもたらすことになります。
 

M&Aが盛んに行われている今、M&Aが市場や消費者に及ぼす影響についても、思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

長谷川よう(ライター)
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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