東芝が経営再建に向けて日本産業パートナーズの買収提案を受け入れ
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日本企業によるM&A歴代5位となる東芝買収
2023年3月、日本の投資ファンドが提案した買収案を東芝が受け入れるというニュースが流れました。国内企業によるM&Aでは、歴代5位の買収金額です。
投資ファンドが東芝を買収することになった経緯を見ていきましょう。
日本産業パートナーズが2兆円で東芝を買収
2023年3月、国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が東芝を2兆円で買収するという提案を、東芝側が受け入れたと発表されました。この買収が成立すれば、日本企業による買収金額として歴代5位になります。
買収に必要な2兆円は、JIPの呼びかけに応じている複数の銀行からの融資と、約20社の企業からの出資でまかないます。
東芝はここ数年、業績悪化から半導体事業などを売却し、海外ファンドからの出資を受けたものの「もの言う株主」との対立から経営の立て直しができていません。ものいう株主は短期的な成果を企業に要求して株価を上げ、所有する株式を売却して利益を得ることを目的としているため、経営再建を目指す経営陣と対立しています。
JIPによる買収により、もの言う株主の影響を排除し、経営再建に向けて歩を進めることができるか注目です。
JIPは7月をめどにTOB(株式公開買付)を実施して議決権ベースで3分の2以上の株式取得を目指しており、実現後は東芝を非公開化、完全子会社化する見込みです。現在、東芝の株主は株式の非公開化によって、東芝は株主の影響を受けずに腰を据えて経営再建に取り組めます。
2015年不正会計が発覚し迷走する経営
1980~90年代、日本の半導体は世界のトップシェアを誇り、その一翼を担っていたのが東芝でした。しかし、2000年代以降、日本のメーカーは韓国や中国などの企業にシェアを奪われてしまいます。加えて、2008年のリーマンショックが追い打ちをかけました。
2015年、東芝に不正会計が発覚します。7年間で総額2,200億円余りの利益が水増しされていたのです。利益の水増しはインフラ工事やパソコン事業など幅広い事業で行われ、組織ぐるみで行われました。
2017年には、子会社であるアメリカの原子力発電プラントメーカー「ウェスチングハウス」が巨額の損失を出して経営破綻に追い込まれ、東芝は2017年度の決算で9600億円余りの最終赤字を計上し、債務超過に陥ります。
そこで、半導体事業やメディカル事業を売却してキャッシュを確保しますが、稼ぐ力がある事業を手放してしまいます。2017年、上場廃止の危機を回避するため、海外ファンドなどから6000億円の融資を受けます。融資によって東芝の経営は安定し、上場廃止も回避できましたが、もの言う株主を引き入れることにもなりました。
東芝の再建をめぐる動き
中長期的な経営再建に取り組めない東芝の経営陣は、モノ言う株主との対立を深めます。そんな中、2021年にはイギリスの投資ファンド「CVCキャピタルパートナーズ」が買収提案を持ちかけます。TOBによって東芝の株式を非公開化・子会社化し、もの言う株主の影響を排除して経営再建に取り組むという、今回のJIPによる提案と同様の内容です。しかし、当時の社長が辞任したことで実現しませんでした。
その後、会社分割案などが出されましたが臨時株主総会で否決され、2022年に再建策を公募することになったのです。東芝再建案の公募には国内外10社の応募があり、その中から優先交渉権を得たのがJIPでした。
日本企業による過去の巨額M&A
JIPによる東芝買収が実現すれば、買収額2兆円は国内企業による買収では歴代5位の額です。上位3位は以下のとおりです。
順位 | 買収側 | 売却側(国) | 買収額 |
---|---|---|---|
1 | 武田薬品工業 | シャイアー(アイルランド) | 6.2兆円 |
2 | ソフトバンクグループ | アーム(イギリス) | 3.2兆円 |
3 | JT | ギャラハー(イギリス) | 2.25兆円 |
それぞれの事例について詳細を見てみましょう。
【武田薬品工業】アイルランドの製薬会社を6.2兆円で買収
2019年1月、武田薬品工業(タケダ)は、アイルランドの大手製薬会社シャイアー社を6.2兆円で買収しました。シャイアー社の強みは希少疾患や血液製剤の分野にあり、医療用医薬品が売り上げの9割を占める同社にとって、シャイアー社のノウハウはさらなる成長の武器になると判断したようです。
ドリンク剤「アリナミン」や風邪薬「ベンザブロック」といった知名度の高い商品を持っていたタケダですが2020年、こうした大衆薬を製造する子会社の武田コンシューマヘルスケアをアメリカの投資ファンドに約2,420億円で売却しました。シャイアー社の買収によって巨額の負債を抱えていることや、医療用医薬品を事業の中心に据えていることが原因と思われます。
医療用医薬品と大衆薬の両方を伸ばしていくのは難しいと判断し、高い収益が見込める医療用医薬品をさらに伸ばしていく戦略が見えます。
【ソフトバンクグループ】イギリスの半導体開発会社を3.2兆円で買収
2016年7月、ソフトバンクグループはイギリスの半導体開発会社アーム社を3.2兆円で買収しました。アーム社が設計するプロセッサは世界のトップシェアを占め、スマートフォンやディスクドライブでは100%のシェア、ドローンなどの電子機器でも高いシェアを誇ります。
さまざまなモノがインターネットにつながるIoTを、グループが成長するうえで重要な分野と位置付けるソフトバンクGにとって、アーム社は重要な存在です。2023年、ソフトバンクGは年内にアーム社単独でアメリカ市場へ上場させる計画があると発表しています。
【日本たばこ産業(JT)】イギリスのたばこ会社を2.25兆円で買収
2007年、JTはイギリスのたばこ会社ギャラハーを2.25兆円で買収しました。2005年における世界のたばこシェア第3位のJTが第5位のギャラハーを買収したことで、JTのシェアは第2位のブリティッシュ・アメリカン・タバコに迫りました。
JTは1990年代末ごろから国内外で同業種・異業種問わず積極的にM&Aを行っており、加ト吉やテーブルマーク、鳥居薬品も傘下に置いています。また、1999年に日本たばこインターナショナルを設立し、2000年代以降は海外のたばこ会社の買収を行っています。
たばこ人口の減少が進む国内ではたばこ以外の事業に手を広げる一方、海外においては世界のたばこマーケットで戦う体制を整えました。国内における多角化とたばこ事業のグローバル化のいずれも、M&A(合併と買収)によって実現していることは実に興味深いです。
まとめ
日本産業パートナーズ(JIP)による東芝の買収は「もの言う株主」から東芝を引き離し、経営再建をサポートする意味合いが強い事例です。買収金額2兆円は、国内企業による買収としては歴代5位の金額です。
買収金額歴代1~3位の事例は、いずれも買い手企業が売り手企業のポテンシャルを評価し、自社の企業戦略を推進する目的で行われた買収で、JIPの事例とは趣旨が異なります。
2兆円の買収額は、複数の銀行からの融資と企業からの出資でまかなわれます。今後、JIPによるTOBが行われ、東芝の非公開化・子会社化に成功したあとに、東芝の再建がどのように行われるか注視しましょう。
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