従業員を解雇しなければならない廃業よりもM&Aを
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廃業の際は従業員を解雇しなければならない
廃業を決定すると従業員を解雇することになりますが、伝えるタイミングや伝えたあとに会社がやるべきことは決まっています。
解雇を従業員に伝えるには
従業員には廃業の30日前までに解雇を通告する必要があります。予告を行わなかった場合、あるいは30日を切った時点で伝える場合、解雇予告手当を出さなければなりません。
解雇予告手当の金額は以下のような方法で計算します。
・予告を行わなかった場合…30日分以上の平均賃金
・30日を切った時点で予告を行った場合…不足日数分の平均賃金
また、従業員を集めて説明会を行い、廃業までの経緯と解雇について説明を行うなど、丁寧な対応が望まれます。なお、一定期間に大量の離職者が出る場合はハローワークに「再就職援助計画」や「大量離職届・大量離職通知書」を提出する必要があります。
従業員への解雇通告後に会社が行うこと
従業員に解雇通告を行ったあとに会社が行うべきこととして、以下のようなことが挙げられます。
・退職金の支払い
就業規則や労働条件通知書に退職金の記載があれば、退職金を支払います。記載がない場合も、従業員の不安を少しでもやわらげるために一時金を用意することがあります。
・未払い金の支払い
従業員の残業代や給与の未払いがある場合は、就業規則や労働条件通知書等に則って計算したうえ、支払います。
倒産が原因で廃業し、従業員に対する未払い金を支払えない場合は「未払賃金立替制度」の活用を検討しましょう。未払賃金立替制度は、倒産企業の従業員の未払い賃金を国が80%立て替える制度です。労働基準監督署が相談窓口となります。
・従業員の再就職支援
会社側の理由で従業員を解雇せざるを得ない場合、事業主は従業員の再就職を支援しなければならないことが「労働施策総合推進法(旧雇用対策法)」第6条に規定されています。
従業員が就職活動をする際、面接日に有給休暇を取れるように配慮したり、会社の取引先に従業員の雇用を依頼したりして、廃業後に従業員が困らないように動きましょう。
廃業が従業員・経営者にもたらす影響
廃業は経営者にとって苦渋の選択ですが、従業員にも多大な影響を及ぼします。それぞれに及ぼす影響について、具体的に見てみましょう。
従業員にもたらす影響
従業員は会社からの賃金で生活をしているため、廃業によって生きていくための糧を失ってしまいます。在職中に再就職先が見つからなければ、解雇後は失業保険を受給しながら就職活動を行うことになり、精神的に不安な日々を過ごすことになります。
また、解雇後は健康保険・厚生年金が国民健康保険・国民年金に切り替わります。配偶者をはじめとする家族の状況によっては、負担する保険料が大幅に上がることもあります。
経営者にもたらす影響
廃業により、経営者は長い時間とお金をかけて培ってきた技術やノウハウを失ってしまいます。従業員が同業他社に再就職すれば技術は活かされますが、まったく別の業界に就職してしまうとスキルを活かす機会がなくなり、業界全体の損失にもつながります。
また、廃業までに給与や残業代の未払いがあった場合、訴訟を起こされるリスクがあります。
廃業ではなくM&Aという選択
「会社の経営が難しくなったから廃業」という判断は、経営者はもちろん従業員にとっても大きなリスクがあります。そこで考えたいのがM&Aという選択肢です。
M&Aとは何か、M&Aを行うことでどんなメリットがあるのか解説します。
M&Aで廃業を免れる
M&Aとは「企業の合併・買収(Mergers and Acquisitions)」を意味する言葉です。M&Aという方法を使い、会社を第三者に買ってもらうことで廃業を免れることができます。
M&Aによって事業規模を大きくしたいと考えている会社は、つねに買収対象を探しています。特に、業績は好調にもかかわらず後継者がいないために廃業を考えているような会社は、M&A市場でも人気が高くなる傾向にあります。
一方、後継者不足に悩む中小企業の中にも、後継者がいないから廃業するのではなく、会社あるいは事業を存続させるためにM&Aを希望する会社が増えています。
M&Aを行うメリット
M&Aによって会社を第三者に譲ることは、経営者・従業員のどちらにもメリットがあります。
【経営者のメリット】
・従業員の雇用を守れる
M&Aによって会社を存続させることができ、従業員の雇用も守られます。廃業にともなう解雇は、経営者にとっても精神的な苦痛を伴います。また、従業員の再就職先あっせんや再就職支援を行っても、すべての従業員の再就職先がスムーズに決まるとは限りません。
M&Aの交渉の際、従業員の雇用について買い手側と話を詰めておくことで、従業員は買収先の会社でも継続して働けます。
・解雇に伴うコストやリスクがなくなる
先に述べたように、廃業による解雇を行うと、退職金を支払う必要があったり訴訟リスクを抱えたりします。M&Aで会社を引き継いでもらえば、このような手間やリスクがなくなります。
ただし、M&Aでは「デューデリジェンス」とよばれる買収対象企業の調査が行われ、未払い残業代などについても調べられます。日ごろからコンプライアンスに則った経営を心掛け、未払い残業代などの問題をクリアにしておきましょう。
・事業譲渡によって利益を得られる
M&Aによって会社を第三者に売却することで、経営者はその対価を得ます。廃業を覚悟していた経営者なら、引退後の生活資金などに充ててもよいでしょう。
【従業員のメリット】
従業員は引き続き働くことができることで、大きな安心感を得られます。またM&A後、新たな経営者のもとで能力を発揮できれば、現在の会社よりも待遇が良くなる可能性もあります。
M&Aは社外の力を借りて行う
M&Aを独力で進めるのは簡単ではありません。買い手となってくれる企業を探す必要があることに加え、M&Aの交渉には労務や税務などの専門知識が必要になるからです。そこで、売り手・買い手ともに、M&Aを仲介する会社の支援を受けながらM&Aを進めていきます。
また、M&Aによって事業承継を行う場合は、中小企業庁の「事業承継・引き継補助金」が活用できます。
事業承継・引き継補助金とは、中小企業・個人事業主の事業承継にかかわるさまざまな取り組みに対して補助金を出す支援制度です。補助金にはいくつかの種類があり「専門家活用事業」というタイプでは、M&Aを行う際、M&A仲介会社などに支払った費用の一部が補助されます。
補助金の予算が計上されるたびに公募が行われ、毎回補助対象者や要件、補助率、補助上限額などが異なります。たとえば、令和4年当初予算分の「事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用事業」における補助率は1/2以内、補助上限額は400万円以内でした。予算の計上や公募時期については、中小企業庁のホームページなどでチェックしてください。
なお、この補助金を活用し、M&A仲介業者などに支払った費用の一部についての補助を受けるには「M&A支援機関登録制度」に登録されている業者を利用することが条件です。M&A支援機関登録制度登録業者は中小企業庁のホームページで確認できます。
まとめ
廃業という選択をすると、従業員を解雇しなければなりません。従業員の生活のことを考えると、廃業はできれば避けたいところです。
事業の継続が難しい場合は、M&Aによって第三者に会社を売却することを考えてみてはいかがでしょうか。M&Aで良い買い手に出会い、買収条件などをしっかり詰めることで従業員を守ることができます。
M&Aを活用した事業承継は国も推進しています。M&Aを進める際は、公的補助金制度やM&A仲介会社を活用しましょう。
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