MBOとは?最新事例に触れながら メリット、デメリット、手続を解説
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■MBOとは?基本的な事項の解説
MBOの定義、内容、目的
MBOとは、Management Buy Outの略で、経営陣による買収のことです。株式会社の仕組みでは、所有者である株主と、経営者である取締役は別の者が担当することが多く、これを「所有と経営の分離」と言います。
所有と経営の分離を行うことで、お金の出し手である株主は、経営のプロである取締役へ経営を委任することにより、株主が経営するよりも大きな成長を手にすることができるのです。
一方、MBOは反対に所有と経営を一致させる行為です。所有と経営を一致させた方が、株主全体の利益になると判断された時にMBOが実行されることとなります。
また、中小企業においてMBOは、オーナーでない代表取締役が、オーナーが引退するのをきっかけにMBOを行うことがあります。MBOを実施することで、今後はオーナー兼社長として、より経営にコミットすることが可能になります。
MBOのメリット
MBOのメリットは、以下のとおりです。
(1) 経営の自由度や意思決定スピードが上がる
組織再編など会社として大きな意思決定をするためには、株主総会の特別決議による承認が必要です。取締役は組織再編を行うのが経営上ベストだと考えていたとしても、1/3超の株主が反対すれば組織再編を行うことはできません。反対株主を説得するための時間や株主総会開催のコストも必要です。MBOにより株主と取締役会を同じメンバーとすることで、意思決定をより迅速化でき、より事由に経営することが可能になります。
(2) 長期的な目線で経営できる
上場企業であれば四半期ごとの決算情報の開示が求められます。MBOにより非上場化することで決算の開示を行う必要がなくなります。短期的な財務影響を気にすることなく、長期的な目線を持って日々の経営に携わることができます。
(3) 従業員からの理解を得やすい
M&Aにより第三者から会社が買収された場合、従業員は新しい経営者のもとで仕事を続ける必要があります。一方、MBOの場合には単に株主が変更するのみで、経営者は継続されます。そのため、従業員にとっては大きな環境の変化はなく、第三者からの買収よりも理解を得られやすい組織再編と言えます。
(4) サラリーマン経営者の状況から独立することができる
中小企業において、オーナーと経営者が別々のケースはよくあります。オーナーが高齢化により引退する際、MBOにより経営者にオーナーシップを持たすことができます。経営者は、MBO後、オーナー兼経営者として、より自由に経営することが可能になります。
MBOのデメリット
MBOのデメリットは、以下のとおりです。
(1) 経営陣が株式買取のための資金準備が必要
MBOは、経営陣が既存株主から株式買取する必要があります。上場企業のMBOの場合には、株式買取資金は多額になります。そのため、経営陣は投資ファンドなどから資金調達した資金をもとに株式買取を進めることが一般的です。
(2) 上場廃止により株式市場から資金調達できなくなる
上場会社がMBOする場合、MBOにより非上場化されます。非上場化されることによるメリットは大きいものの、株式市場から資金調達できなくなるといったデメリットもあります。
■MBOの最新事例を紹介
イグニスのMBOについて
2021年3月6日、スマホアプリ開発のイグニスがMBOを実施することを発表しています。ベインキャピタルとイグニス経営陣が株式の100%取得を目指します。全株を取得できた場合には、株式の買取代金総額は約500億円になります。
上場廃止し株主の意向に左右されることなく、中長期的な事業転換を目指し、新サービスの開発を急ぐ狙いです。
ニッパンレンタルのMBOについて
2021年3月12日、建機レンタルのニッパンレンタルがMBOを実施することを発表しています。ニッパンレンタル社長の赤城社がTOBする方法で買付が進みます。買付価格は1,050円と前日終値の918円から約14%のプレミアムが付されています。
MBOにより短期的に収益悪化の恐れのある店舗の統廃合などを実施し、事業構造改革を進める狙いです。背景には、店舗の統廃合を行うことで、短期的には多額の減損損失が発生することから株主に対する説明が難しいといったことがあります。
■ニチイ学館のMBOについて
2020年8月19日、介護大手のニチイ学館は、経営陣がベインキャピタルと組みMBOが成立したことを発表しました。発行済株式総数の82%を取得し、現在は上場廃止されています。TOB期間は3回延長され、TOB価格も当初の1,500円から1,670円に引き上げられての成立でした。既存株主からの同意がなければ、TOBの価格を引き上げざるを得ず、より多くの資金が必要になります。
今回のMBOにより介護事業の構造改革を行い、また、新規事業を立て直すことが狙いです。
■MBO実施のために必要なこととは
MBOの手続とは
MBOを実現させるためには経営陣の資金調達がポイントとなります。通常、MBOを実現させるためには多額の資金が必要であることから、「SPC」を利用して資金調達を行います。手続の流れは以下のとおりです。
- 1. 経営陣がSPC(特別目的会社)の設立
- 2. SPCがファンド、金融機関、投資家等から資金調達を実施
- 3. SPCが得た資金により、対象会社株式を買取
- 4. SPCとMBOの対象会社が合併(SPCは消滅)
上記の手続を踏むことで、経営陣が直接対象会社のオーナーとなることができ、所有と経営が一致するMBOが成立します。SPCを利用することで、対象会社の将来キャッシュフローや資産を担保に投資家から資金調達できるため、経営陣が直接資金調達するよりも、多くの資金を集めやすいというメリットがあります。
MBO実現のためのポイント
MBO実現のためには、早めに頼れる専門家に相談することです。MBO実施の手続を見ても分かるように複雑なスキームを用いる場合には、自分一人の力では達成することは不可能です。
また、MBOの場合、SPCを必ず利用するわけではなく、案件規模、経営者の資金力、投資家の状況など状況に応じて様々なスキームが考えられます。M&Aに詳しい税理士、会計士、弁護士など、専門家に相談することで、ご自身に合った適切なスキームを提案してもらえるはずです。
最初に誤ったスキームや方法でMBOの手続を開始してしまうと、後戻りすることが非常に難しくなります。M&A、MBOの世界では最初の一歩目が大切です。専門家と慎重な協議のうえ、MBOを進めるようにしましょう。
■まとめ
MBOは、元々株主がバラバラである状態から、経営者に株式を集約させることです。MBOにより、経営意思決定をより自由に早く行うことが可能になります。
MBO実現のためには、経営陣が既存株主から必要な株数を買取できるかが成否を分けるポイントです。提示している株価が割安な場合は、既存株主は反対し、必要株数を集めることができません。反対に割高な株価を提案した場合は、必要株式は集まりますが、投資資金が増大し、MBO資金を回収できなくなる可能性が高まります。
MBO手続はSPCを活用したスキームを用いることが通常ですが、これに限ったことではありません。適切な専門家に相談のうえ、慎重にプロジェクトを進めることが重要です。
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