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アメリカでの事業継続のためTikTokを親会社から分離検討?

アメリカでの事業継続のためTikTokを親会社から分離検討?

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2023年3月、アメリカのバイデン政権は動画投稿アプリ「TikTok」の運営会社を傘下に置く中国企業「バイトダンス」に対し、アメリカのTikTok運営会社の株式を米国企業に売却するよう求めました。

米バイデン政権によるTikTok分離指令

2023年3月17日、アメリカ政府が中国の企業「バイトダンス」に対し、傘下の企業である動画投稿アプリ「TikTok」運営会社の株式を、中国以外の企業に売却するよう求めているというニュースが報じられました。売却に応じなければ、アメリカ国内でTikTokの利用を禁止する可能性もあるとしました。
TikTokは世界150か国以上に10億人の利用者がいる、人気の動画投稿アプリです。2016年にバイトダンスがアプリの提供を開始しました。アメリカでも2億1,000万回以上がダウンロードされており、ユーザーの約60%は10代半ばから20代半ばの若い世代といわれています。なお、TikTokのアメリカにおける事業会社はロサンゼルスにあり、TikTokという社名を名乗っています。
アメリカ政府がバイトダンスに対してTikTok運営会社の株式売却を求めている背景には、TikTokのアプリから利用者の個人情報が中国政府の手に渡っているのではないかという懸念があります。

アメリカでのTikTokをめぐる問題

アメリカでTikTokの使用禁止が議論されるようになったのは、2020年のトランプ政権下にまでさかのぼります。アメリカにおけるTikTok禁止問題について振り返ってみましょう。

トランプ政権時代の大統領令

2020年8月、トランプ大統領は「アメリカの企業に対し、9月20日までにTikTokを提供するバイトダンスや関連企業と取引することを禁止する」「11月12日までにTikTokのアメリカ事業を売却せよ」とという2つの大統領令に署名しました。
その理由として挙げられたのが「TikTokアプリを通じて利用者の位置情報や検索履歴などが収集され、中国政府の手に渡っている」という主張です。TikTokを利用している公務員などの位置情報が中国政府に握られると、恐喝されたりスパイ活動に協力させられたりするための材料に使われる恐れがあり、アメリカの国家安全保障を脅かすというのです。
ただ、アメリカでも人気の高いTikTokを頭ごなしに禁止してしまうと、国民の反感を買ってしまいます。2020年11月に大統領選を控えていたトランプ大統領は、票のことを考えて、アメリカの企業にTikTokのアメリカ事業会社を買収させようとしたようです。
この大統領令を受け、名乗りを上げたのが米のIT企業マイクロソフト社です。その後、同じく米のIT企業であるオラクル社も名乗りを上げ、さらには米の大手小売業ウォルマート社がマイクロソフト社と連携すると発表しました。
 

結果的に、TikTokが選んだのはオラクル社でした。また、オラクル社とTikTokの提携には、ウォルマート社も出資することが発表されました。ただし、後述するように、この買収は中国政府によって否定されています。
なお、2021年にバイデン大統領になってから、トランプ大統領の大統領令は取り消されており「アメリカ国内におけるTikTokの使用禁止」は実現しませんでした。

TikTokの買収を試みた背景

ところで、マイクロソフト社やウォルマート社、オラクル社がTikTokの買収に名乗りを上げたのはなぜでしょうか。いずれも、TikTokのようなSNSのプラットフォームを持っているわけではありません。

・マイクロソフト社

マイクロソフト社は、自社が手がける「MSN」「Bing」といった検索エンジン上での広告事業強化を図っています。TikTokにはファッションや飲食など、さまざまな分野の企業が広告を出しており、TikTokを傘下に置くことで、検索エンジンの広告主も集められると考えました。また、TikTokのユーザーデータの広告事業への活用も期待されていました。
しかし、中国政府が2020年8月にアルゴリズム技術の輸出を禁止したことから、マイクロソフト社は買収するメリットがないと判断し、候補から外れたようです。

・ウォルマート社

小売業のウォルマート社の狙いは小売のDX化推進です。たとえば、TikTokを使えば、店員やインフルエンサー、タレントなどがライブ配信を行い、ユーザーとやりとりをしながら商品を販売する「ライブコマース」などが可能になります。ライブコマースは新型コロナウイルス禍をきっかけに、急速に普及しています。

・オラクル社

基幹系アプリケーションを開発するオラクル社は、クラウドサービスも手がけていますが、AWS(アマゾンウェブサービス)やマイクロソフトなどに及ばず苦戦しています。オラクル社はウェブ会議システム「Zoom」を傘下に置いており、TikTokも傘下に置くことで、企業のさらなる成長につなげたいと考えているようです。
2020年9月、オラクル社とウォルマート社が連携し、アメリカでのTikTok運営会社「TikTok Global」の株式の20%を買収することが決まったと発表されました。また、アメリカのTikTokユーザーのデータは、オラクルのデータセンターに移管されることも決まりました。TikTokの買収先がオラクル社に決まった背景には、オラクル社の創業者がトランプ大統領の支持者であることが影響しているといわれています。
ところが、買収の報道が流れた直後、中国政府は「TikTok Globalはバイトダンスの100%子会社としてアメリカに本社を置く」と発表し、買収ではなく業務提携であるとしました。オラクルものちに買収ではなく「テクノロジープロバイダーである」と正式に発表しています。
結局、アメリカにおけるTikTokの米企業による買収は実現しないまま、アメリカではトランプ政権からバイデン政権に移り、時間だけが経過しました。

中国政府は売却案に反対を表明

2023年現在、アメリカでは連邦政府の職員が仕事用端末でTikTokアプリを利用することを禁止しています。また、州政府でも、職員などが政府から支給された端末でTikTokの利用を禁止しているところが、過半数に上っています。さらに、大学にも、学内Wi-Fiにつながっている端末でTikTokアプリの使用を禁止するところがあります。
2023年3月1日に、アメリカ議会下院外交委員会はアメリカ国内でのTikTok利用禁止法案を提出し、可決されました。もっとも、法案は上下院本会議での可決を経て、バイデン大統領の署名が必要なので成立するかは不透明です。
このような状況の中、政府はバイトダンスに対し、アメリカにおけるTikTok事業を米国企業に売却するよう求めました。
アメリカはTikTok禁止の背景に「安全保障上の懸念がある」としていますが、TikTokユーザーの個人情報がバイトダンスを通じて、中国政府に渡ったことは実証されていません。中国には「国家情報法」という法律があり、個人・組織にかかわらず国の情報活動に協力することが義務付けられています。国家情報法の存在が、アメリカに危機感を与えているのです。
TikTokに対する警戒感を高めているのはアメリカだけではなく、ヨーロッパ諸国でも同様の動きが見られます。こうした動きに対し、中国政府は「安全保障の概念を拡大し、乱用するのはやめてほしい」と反発しています。また、アメリカがTikTok売却を迫っている件についても「他国企業の押さえつけ。断固反対する」と述べています。

まとめ

アメリカでは安全保障上の懸念から、中国系企業が運営するTikTokについて公務員などが使う仕事用端末での利用を禁止しています。さらには、TikTokの使用禁止は一般市民にまで広がろうとしています。「TikTokの利用で個人情報が中国政府に渡る」と発言したのはトランプ前大統領ですが、政権が変わってもその認識はますます高まっているようです。
一方で、アメリカの企業は、TikTokがビジネスにおいてさまざまな可能性を持っているサービスであることを認識しており、できれば中国の影響がないところでうまく活用したいと考えています。
今後、TikTokをめぐってアメリカの政府と企業がどのように動くか注視したいところです。

長谷川よう(ライター)
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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