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経営者の認知症リスクに備えて家族信託を事業承継に活用しよう

経営者の認知症リスクに備えて家族信託を事業承継に活用しよう

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日本の経営者でいちばん多い年齢層は70代以上です。65歳以上になると認知症のリスクが高くなり、認知症になると事業承継にも大きな影響を及ぼします。
  ここでは、認知症対策として家族信託を活用した事業承継の方法をご紹介します。後継者を育てながら事業承継ができる点が家族信託のメリットです。

経営者の高齢化と認知症リスク

経営者が高齢化すると認知症のリスクが高まり、経営判断に影響を及ぼします。具体的にどのような影響を及ぼすのか見てみましょう。

高齢の経営者は認知症リスクが高い

東京商工リサーチによる調査によると、2021年における全国の社長の平均年齢は62.77歳で、調査を開始した2009年以降で最高を記録しました。また、30代以下・40代・50代・60代・70代以上で区切った年齢分布を見ると、もっとも多いのが70代以上で、32.7%を占めています。70年以上が最多となるのは、2019年以降3年連続です。
 

「人生100年時代」「生涯現役」という謳い文句が躍るご時世ですが、現実的には生涯にわたって的確な経営判断を行うことは簡単ではありません。年を重ねるほど、認知症のリスクが高まるからです。
 

厚生労働省によると、国内における65歳以上の認知症の患者数は推計約600万人とされており、2025年には約700万人になると予測されています。700万人といえば、65歳以上の人口の約5人に1人の割合です。

経営者が認知症になると経営に影響が出る

経営者の3割強が70代以上を占めているということは、認知症のリスクを抱えている経営者が少なくないことを示しています。認知症とは記憶や理解、判断などの能力が低下することを指しますが、これらの能力が低下すると、経営者の仕事である「経営判断」ができなくなります。
 

経営判断を行う際には、さまざまな契約を結んだり、株主総会で上がる議案で議決権を行使したりする局面があります。しかし、認知症になって自身の行為の結果を判断できなくなると、契約や権利の行使といった法律行為は無効になってしまいます。
 

特に、経営者が株式の50%以上を持っているような「同族会社」に該当する場合、経営者が認知症になってしまうと株式総会で重要な決議ができなくなり、会社の経営に支障をきたしてしまいます。

※同族会社とは、経営者一族など特定の株主が会社の支配権を握っている会社を指します。同族会社には以下のような判定基準があり、税制上の制限を受けます。

【同族会社の判定基準】
下記の①および②が、発行済株式総数または出資総額の50%超を保有している場合、その会社は「同族会社」とされます。
① 3人以下の株主等
② ①と特殊の関係(親族など)にある個人および法人の株主等

家族信託を活用した事業承継

高齢の経営者にとって、事業承継は一刻も早く取り組む必要がある問題です。しかし、後継者を育成して事業承継を行うには、数年の時間を要します。その間に経営者が認知症になると、事業承継ができなくなる恐れがあります。
 

そんなときは、家族信託という制度を活用すれば、後継者の育成と事業承継を同時に行うことができます。ここでは、家族信託を利用した事業承継について解説します。

事業承継には時間がかかる

事業承継には、子どもなど親族が後継者となる「親族内承継」のほか、親族以外の社内の人間を後継者にする「親族外承継」、第三者に事業・会社を譲渡する「M&A」があります。近年、親族外承継やM&Aによる事業承継が増えていますが、今もなお多く行われているのが親族内承継です。
 

事業承継とは、株式や土地や建物など経営に必要な資源を後継者に引き継ぐことです。また、資産を引き継ぐ前に、後継者を育成する期間も必要となります。後継者の育成や株式・資源の引継ぎなど、事業承継に必要な期間は5〜10年ほどかかるといわれています。
 

経営者が途中で認知症になってしまうと、事業承継に必要な贈与や売却といった法律行為を行えません。

家族信託を使った認知症対策

近年、事業承継を考えている経営者の認知症対策として注目されているのが、家族信託です。家族信託とは、信頼できる家族に自身が所有する財産の管理や処分を任せる契約です。
財産の管理・処分を任せる「委託者」と、財産を管理・処分する「受託者」が家族信託の契約を結び、受託者が委託者の財産を管理します。また、受託者が財産を管理して利益が出た場合、利益を受け取る人を「受益者」とよびます。
 

委託者と受益者は同一人物であることが多いですが、受益者を委託者の配偶者にすることもできます。また、受益者を複数の家族にすることも可能です。
 

なお、自身の財産管理を誰かに託す制度として、家族信託のほかに「任意後見制度」などがあります。しかし、任意後見制度における後見人は、本人が認知症などになってからでないと財産の管理が行えないなど、後継者育成・事業承継の観点から活用しづらいといった難点があります。
 

では、経営者の息子を後継者とする事業承継において、以下のように家族信託を活用して株式を信託する場合を考えてみましょう。
 

委託者…現経営者
受託者…後継者
受益者…現経営者
 

株式には、財産権(配当などを受ける権利など)と経営権(株主総会の議決権など)があります。家族信託では、株式に指図権を設定して経営権だけを受託者に移せます。指図権とは、財産の管理・運用方法について受託者に指図する権利のことです。
 

つまり、現経営者は経営から身を引くのではなく、議決権の行使について後継者に意見を述べて経営に関われます。

家族信託を活用した事業承継のメリットと注意点

家族信託を活用した事業承継にはメリットがある一方、注意点もあります。それぞれ見ていきましょう。

メリット①自益信託なら贈与税がかからない

家族信託の受託者を後継者、委託者・受益者を現経営者とする信託契約を「自益信託」といいます。自益信託の場合、生前贈与に当たらないため、贈与税がかからないというメリットがあります。
 

一般的には株式を生前贈与すると、贈与税がかかるうえに現経営者は経営権がなくなりますが、自益信託で株式に指図権を設定しておけば、贈与税がかからないうえに現経営者が経営に関われます。

メリット②指図権者の設定で柔軟な対応が可能

現経営者を信託する株式の指図権者としておき、元気なうちは後継者とともに経営に参画可能です。後継者に跡を任せられると判断したタイミング、あるいは自身が認知症と診断された時点で財産権を移すように決めておけます。

メリット③経営者は先々の後継者を指定できる

家族信託では、受託者は受益者を決めることになりますが、子どもだけでなく、現時点でまだ生まれていない子孫も指名できます。また、受益者を決めたり変更したりする人を定めておくことも可能です。

注意点①専門家が少ない

家族信託は、2006年の信託法改正によってできた新しい制度です。施行から16年しか経っておらず、この制度を活用した事業承継を実際にサポートした専門家は少ないのが実情です。
 

高齢経営者の認知症対策としての家族信託を活用できないか、相談に乗ってもらえる専門家を探すのに苦労するかもしれません。

注意点②経営者が認知症になってからでは活用できない

家族信託は契約行為です。つまり、現経営者が認知症になってからでは、家族信託の契約を結べません。事業承継まで残された時間がなく、家族信託を検討しはじめたら、早めに相談できる専門家を探し始めましょう。

まとめ

高齢の経営者にとって、事業承継は喫緊の課題です。年を重ねるほど認知症のリスクが高まるからです。認知症になってしまうと、事業承継の過程で必要な株式の売却や株主総会の議決権の行使ができなくなります。さらに、中小企業では、経営者が株主の大半を所有しているケースが多く、会社の経営そのものが立ち行かなくなってしまいます。
 

認知症対策として、活用したいのが家族信託です。後継者に自身が所有する株式などの管理・運営を委ねつつ、自身とともに後継者を経営に参画させることが可能なメリットがあります。
 

家族信託は制度ができて16年という新しい制度です。活用に詳しい専門家がまだ少ない状況ですが、関心のある方はぜひ検討してみましょう。
 

▼参照サイト

認知症【厚生労働省】

長谷川よう(ライター)
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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