税理士事務所・会計事務所のM&A 費用・相場や動向、注意点を徹底解説
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- この記事の監修者
- フェイス税理士事務所
代表税理士 高田 祐一郎
会計事務所と税理士事務所(税理士法人)の違いと現状
税理士事務所や会計事務所のM&Aを見ていく前に、まずは会計事務所と税理士事務所、税理士法人の違いや現状を見ていきましょう。
会計事務所と税理士事務所の違い
会計事務所と税理士事務所の違いは、経営者(代表者)と業務内容に違いがあります。
税理士事務所は、税理士が個人事業として営んでいる事務所のことです。業務内容は、基本的に税務に限定しています。
一方、会計事務所は税理士または公認会計士が個人事業として営んでいる事務所のことです。会計事務所といっても、税理士事務所と同じように税理士が代表者として経営していることも多いです。
つまり、税理士は税理士事務所もしくは会計事務所として個人事業を営み、公認会計士は会計事務所として個人事業を営みます。会計事務所の業務内容は、税務にとどまらずコンサルティングなどを行うことが多いです。
会計事務所と税理士法人の違い
会計事務所と税理士法人の違いは、組織形態にあります。会計事務所は個人事業であるのに対し、税理士法人は法人です。そのため、事業規模は税理士法人のほうが大きい傾向にあります。また業務内容も、税理士法人は税務に限定していることが多いです。
会計事務所と税理士事務所、税理士法人の違いをまとめると、以下のとおりです。
税理士事務所 | 会計事務所 | 会計事務所 | |
---|---|---|---|
経営者(代表者) | 個人 | 個人 | 法人 |
業務内容 | 税務 | 税務 コンサル業務 会計監査 |
税務 |
組織形態 | 個人事業 | 個人事業 | 法人 |
税理士事務所・会計事務所業界の現状
税理士事務所や会計事務所では、税理士の高齢化が進み後継者問題が深刻化しています。
日本税理士連合会は、10年ごとに税理士実態調査を行っており、2014(平成26)年に行った「第6回税理士実態調査」で、税理士の年代別構成割合を発表しています。それによると、税理士がもっとも多い年代は60歳代で、なんと全体の30.1%でした。次に多かったのが50歳代で全体の17.8%、次いで40歳代の17.1%、70歳代の13.3%でした。60歳以上が占める割合が、全体の半数を超える53.8%となっています。一方、20歳代は0.6%、30歳代は10.3%と若い世代の税理士が少ないことが分かります。
このことは、税理士が高齢化していることや、後継者となるべき若い税理士がいないことを示しています。税理士の高齢化と後継者問題の深刻化は、税理士事務所や会計事務所のM&Aの増加につながるといえるでしょう。
個人経営の税理士事務所・会計事務所における後継者問題とM&A
個人経営の会計事務所のM&Aは、主に後継者問題を解決する方法として用いられます。
税理士事務所・会計事務所の後継者問題
近年、個人経営の会計事務所では、所長が高齢化しているのに後を継ぐ人がおらず、廃業の危機にさらされるケースが増えています。こうした事務所は代表税理士1名と税理士資格を持たない所員数名、または資格はあっても、事務所を率いるほどのキャリアがない所員で構成されている場合が多いです。
一方、中小企業を取り巻く経済環境や会計事務所の採用環境の悪化により、会計事務所は業務拡大に苦労しています。
- 記事監修者からの
ワンポイントアドバイス - 引退が近づく所長にとって、事務所運営を支えてくれた顧問先様や従業員はとても大切な存在です。安心できる税理士事務所への承継を望まれています。
- フェイス税理士事務所代表税理士 高田 祐一郎
税理士事務所・会計事務所をM&Aで売買するメリット
所長の高齢化・後継者問題に悩む会計事務所と、事業拡大を考えている会計事務所のそれぞれの問題点を同時に解決できる方法がM&Aです。後継者問題を抱えている会計事務所の所長は、事務所を売却することで「廃業による所員の失業」という事態を回避できます。また、事業拡大を考えている会計事務所は、事務所を買収することにより短時間で効率的に事業拡大が実現します。
M&Aには株式譲渡や事業譲渡、合併などさまざまな手法がありますが、個人経営の会計事務所を売却する場合、事業譲渡という手法を取ることが多いです。
・事業譲渡
事業譲渡とは、事業全般または一部だけを譲渡する方法です。たとえば、売り手側(事業を譲渡する側)の会計事務所が税理士業務に加え、保険代理店やコンサルティング業も手がけている場合、売り手側のすべての業務を売買するか、税理士業務だけを売買するか売り手・買い手側がともに選べます。
税理士事務所・会計事務所のM&Aにかかる費用はどれくらいか
会計事務所のM&Aにおいて必要となる費用は、買い手が売り手に支払う買収費用だけではありません。買収費用に加え、買い手・売り手ともに仲介会社への手数料が必要となるほか、場合によっては双方に税金がかかるケースもあります。
M&Aで売り手・買い手にかかる費用
・仲介会社に支払う手数料【売り手側・買い手側】
会計事務所のM&Aを当事者たち(売却希望側と譲受希望側)が自力で相手を探し、交渉することは現実的に難しい話です。売り手側・買い手側ともにM&Aを専門に手がける仲介会社と契約し、相手を探してもらって交渉する方が一般的です。
仲介会社に支払う費用は「仲介手数料」とよばれ、相談から交渉成立までのいくつかの局面で手数料が発生します。仲介会社によって発生する局面は異なりますが、例として以下のような種類の手数料があります。
着手金…仲介会社と契約を結んだ時点で発生する手数料です。着手金は無料のところもあれば、100万円以上必要となる場合もあります。着手金がかかる仲介会社のもとには、M&Aを本気で考えている顧客が集まるというメリットがありますが、M&Aが成立しなくても返金されないので要注意です。
成功報酬…M&Aが成立した時点で支払う手数料です。会計事務所のM&Aにおける成功報酬は、多くの場合10%(最低報酬あり)となります。
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ワンポイントアドバイス - 上記以外にも、相談料や中間金(M&Aのプロセスの途中で発生する)、デューデリジェンス費用(買収前に行われる監査)、月額手数料(M&Aが成立するまで毎月支払うものなど)が発生することもあります。
- フェイス税理士事務所代表税理士 高田 祐一郎
・買収費用【買い手側】
当然のことですが、買い手側には買収費用がかかります。会計事務所の買収価格算出方法については、下で詳しく説明します。
・税金【売り手側・買い手側】
M&Aで会計事務所を売買した場合、税金がかかる場合があります。たとえば、事業譲渡の手法を用いた場合、売り手側・買い手側それぞれに以下のような税金がかかります。
売り手側…譲渡益に対する税金(売り手が個人なら所得税、法人なら法人税)
買い手側…消費税(譲り受けた資産の中に課税対象のものが含まれる場合)、登録免許税・不動産取得税(不動産を譲り受けた場合)
次は、会計事務所の売買価格の相場について見ていきましょう。
税理士業務がメインなら年間顧問報酬や年商の総額が相場
個人経営の会計事務所で税理士業務をメインに行っている場合、1年間の顧問報酬や前年の年商が売買価格の相場となることが多いです。「相続税の申告を多く手がけている」「別法人として設立している会計法人からの記帳代行料がある」「保険代理業の収入がある」などのケースでは、年商を基準にします。
- 記事監修者からの
ワンポイントアドバイス - 実際には交渉やデューデリジェンスを経て最終的な売買価格を決定します。事前に相場を把握しておくことで、適正額の判断ができ、双方納得のいく交渉になることでしょう。
- フェイス税理士事務所代表税理士 高田 祐一郎
コンサルティングなども行っている場合は企業価値を算出する
税理士業務に加えてコンサルティングなどの業務も行っている場合は顧問報酬や前年の年商ではなく「企業価値」をもとに売買価格を決定することがあります。
企業価値とは、企業が持つ総合的な価値を表す金額です。その企業が手がける事業から生み出される純資産価値や営業権、知的財産価値に加え、預金や遊休地なども企業価値に含まれます。企業価値を出すには、時価純資産法やDCF法といった算出方法を使います。
●時価純資産法…企業が保有する有形・無形の資産を時価評価した時価資産から、時価負債を差し引いた「時価純資産」を企業価値とします。
●DCF法…「ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー」の略。フリーキャッシュフロー(会社が自由に使える現金)をもとに企業が将来生み出す価値を出し、そこからコストを割り引いて算出した現在価値を企業価値とします。
税理士事務所・会計事務所をできるだけ高く売却するには
会計事務所を売却する側としては、できるだけ高く売却したいところです。売却価格を上げるには、売上高をアップさせて企業価値を高める必要があります。
事務所の売却を成功させるには、1,000万円〜1億円程度の売上高が必要とされています。売却を考え始めたら、まずは売上高の目標額を設定し、目標額に到達した頃に高い価格で売却できるよう計画することが大切です。事業承継計画を作成し、数年間のスパンで事務所の売却を考えましょう。
税理士事務所・会計事務所の売却相場
M&Aにあたって意識してもらいたいことが、売却相場です。これを理解していないと、買い叩かれたり、交渉に失敗して手を引かれるなどの問題につながりかねません。また、買い手としても、必要以上にお金を出す必要がなくなります。
相場は時期や事務所の所在地などに左右されますが、概ね以下のどちらからです。
- 1年分の顧問報酬
- 2年~3年分の営業利益
もし、1年間の顧問報酬が4,000万円あれば、M&Aも4,000万円程度で成立しやすくなります。また、1年間の営業利益が1,000万円ならば2,000万円から3,000万円程度で成立するという計算です。
M&A成功のための注意点・ポイント
ここからは、M&A成功のための注意点やポイントを見ていきましょう。
信頼できるアドバイザーを選ぶ
M&Aは、相手先との交渉や手続きなど難しいことも多く専門知識がないと成功しません。そこで、M&AのアドバイザーにM&Aに関わる業務を依頼するのが一般的です。
ここで注意したいのが、信頼できるアドバイザーを選ぶということです。会計事務所や税理士事務所のM&Aは、一般の会社とは事業の内容や形態が異なります。そのため、会計事務所や税理士事務所の業務に精通しているアドバイザーにM&A業務を依頼しないと、うまくいかない場合があります。
M&Aを成功させるためにも、会計事務所や税理士事務所の業務に精通している、もしくは会計事務所や税理士事務所のM&Aの経験が豊富な信頼できるアドバイザーを選ぶことが重要です。
早い時期からM&Aの準備を進める
M&Aはアドバイザーに相談してからクロージングするまで、多くの時間がかかります。すぐに相手先が見つかれば良いですが、相手先が見つかるまでに数年かかることもあります。税理士事務所や会計事務所の経営者が、引退したいからといって直ぐにM&Aができるとは限らずに、引退が先延ばしになることもあります。
後継者がいない・引退する年齢を決めているなど、今後M&Aを希望している場合は、早い時期からM&Aの準備を進めましょう。
M&Aにより顧客との契約が解消されるリスクを考慮する
会計事務所や税理士事務所のM&Aで注意しないといけないことのひとつが、顧問先との契約が解消されるリスクです。顧問先が譲渡先の会計事務所や税理士事務所との顧問契約を嫌がって、契約を解約する可能性があります。
代表税理士がM&Aで事業を譲渡したあと、譲渡先にしばらく籍を置いて、顧問先にM&Aについて丁寧に説明することで契約解消のリスクを減らせます。会計事務所・税理士事務所のM&Aでは、こうした事業・経営の統合プロセス(PMI)を設けることが一般的です。
事業承継・引継ぎ補助金を活用して経費の削減を
「事業承継・引継ぎ補助金」は、M&Aや事業承継を進める中小企業や個人事業主に対し、費用の一部を補助する中小企業庁の制度です。この補助金を活用することで、M&Aにかかる費用を削減できます。補助金には以下の3タイプがあります。
①経営革新事業
M&Aや事業承継をきっかけに、事業の再構築や経営統合などに挑戦する際の費用を補助。
補助率2/3、補助上限額600万円
②専門家活用事業
M&Aにかかる専門家などの活用費用(M&A仲介会社への手数料、デューデリジェンス費用など)を補助。
補助率2/3、補助上限額600万円以内
③廃業・再チャレンジ事業
再チャレンジを目的に既存事業を廃業するための費用を補助。
補助率:2/3、補助上限額150万円
M&Aで会計事務所を売却する場合②を活用することができます(②は買い手側・売り手側のどちらも活用可能)。
なお、事業承継・引継ぎ補助金を受けるには申請が必要です。また、上記の内容は令和3年度補正予算の要件です。令和4年度以降は変更となる可能性があります。最新情報、および申請受付期間や申請方法などは「事業承継・引継ぎ補助金」の公式サイトで確認してください。
記事監修者 高田税理士からのワンポイントアドバイス
高齢を迎えた所長の最後の仕事として、長年お世話になってきた顧問先様、家族に近い従業員を、安心して任せられる事務所へ承継し、引退したいと考えるものです。しかし、思いに共感してくれる承継先、しっかりとした組織を持つ税理士法人を見つけることはなかなか困難です。
そこで、M&Aを活用すれば、事業拡大を目指す税理士事務所とマッチングする機会を増やすことができるため、承継の手法として使われる機会が増えてきています。
- この記事の監修者
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