介護業界におけるM&Aとは?現状とメリット・デメリットを解説
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■介護業界におけるM&Aの現状
介護業界の市場は拡大を続け、参入業者が増加していますが、近年M&Aの件数も増加しています。ここでは、介護業界の現状と業界におけるM&Aについて見てみましょう。
介護業界を取り巻く現状とは
高齢者の日常生活をサポートする介護サービスは「在宅で受けるもの」「自宅から施設に通って受けるもの」「施設などに入居して受けるもの」の3つに分かれており、利用希望者は居住する市区町村から要介護認定を受け、介護保険を使ってサービスを利用します。それぞれのサービスを提供する施設として、以下のようなものがあります。
- 在宅で受けるサービス…訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーションなど
- 自宅から施設に通うサービス…通所介護、短期入所生活介護(介護老人福祉施設に短期間入所する)など
- 施設などに入居するサービス…介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、住宅型/介護付き有料老人ホームなど
少子高齢化の進展や要介護認定者の増加とともに介護サービスへの社会的なニーズが高まり、介護業界の市場は拡大を続けています。社会福祉法人や医療法人に加え、異業種からも介護業界に算入する業者が増えました。
慢性的な人材不足に悩まされている介護業界ですが、2021年8月23日に厚生労働省から発表された「令和2年度 介護労働実態調査」によると、訪問介護員と介護職員を合わせた令和2(2020)年度の離職率は14.9%でした。2007年度の21.6%をピークに、13年連続で減少しています。また、介護2職種合計の離職率は全産業の平均離職率15.6%に比べても低くなっています。
しかし、現場で働く人の悩みとして「人手が足りない」と答えた人の割合が52.0%にのぼり、訪問介護員の4人に1人が65歳以上を占めていることから、人材不足は解消されていないことが伺われます。
人材不足の一因として、給与をはじめとする職員の待遇が他の業界に比べて悪いことが挙げられますが、介護業界では「収益を上げて職員の給与を上げる」ことが簡単ではありません。なぜなら、利用者の要介護状態と利用したサービスに応じ、事業者が得られる報酬単価が決まっているからです。なお、介護報酬は3年に一度、改定が行われます。
異業種からの算入によって競争が激化する一方、人材不足や経営難から運営に支障をきたして撤退や廃業に追い込まれる事業者も少なくありません。
M&Aの現状とは
近年、介護業界におけるM&Aは介護業者間、あるいは介護業者と業界算入を目指す異業種との間で活発に行われています。2000年に介護保険法が施行され、医療法人や社会福祉法人ではない一般の営利法人も、介護業界に算入できるようになりました。この頃より介護業界のM&Aも増え始め、2010年頃には景気低迷や東日本大震災の影響もあって一時停滞したものの、その後は再び増加に転じて現在に至っています。
介護業界のM&Aを形態別に見ると、2000~2009年は資本参加32%、買収35%、その他33%となっていましたが、2010~2018年では資本参加29%、買収47%、その他24%となり、最近は買収が多くなっています。これは、買い手側が介護業界に大きなビジネスチャンスがあると見ていることの現れといえます。
介護業界のM&Aの一例として、株式会社ココカラファインの事例が挙げられます。2009年、ドラッグストアチェーンを運営する株式会社ココカラファイン(当時は株式会社ココカラファインホールディングス)は子会社を通じ、介護支援事業を手がけるタカラケア株式会社との間でM&Aを行い、タカラケアの全株式を取得。タカラケアの親会社が保有していた介護関連施設を手に入れ、介護事業に算入しています。
■介護業界におけるM&Aのメリット
介護業界でM&Aを実行すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)それぞれの面から見てみましょう。
M&Aの譲渡側のメリット
介護業界に限った話ではありませんが、譲渡側がM&Aに踏み切る背景として「跡を継いで事業を継続する人がいない」ことが挙げられます。譲受側が事業を引き継いでくれれば、廃業を回避し、従業員の雇用を守ることができます。
また、介護業界には、同業他事業者と差別化を図り、収益を上げていくのが難しいという課題があります。特に、資本力が弱い中小の介護事業者は経営難に陥るリスクがあります。大きな資本を持つ企業に会社を譲渡すれば、譲受側の傘下に入ることで安定した経営が期待できます。また、従業員の待遇改善や施設の充実にもつながる可能性があります。
M&Aの譲受側のメリット
譲受側が介護業界への新規参入を図っている場合、M&Aはもっとも効率的な手段となります。一から介護施設をつくり、人材を募集したり育てたりする手間が省かれるためです。
また、譲受側が介護事業者である場合は、同業者間のM&Aによって事業規模を拡大することができます。介護サービスには訪問介護や通所介護、介護付き有料老人ホームなどさまざまな形態がありますが、M&Aによって手がけていなかったサービスの新規展開や、これまでサービスを展開していなかった地域への進出、さらに既存の自社サービスとの相乗効果も可能になります。
先ほど述べたココカラファインは比較的介護業界と近い業種からの算入でしたが、人材派遣会社のグッドウィルグループやセキュリティサービスの綜合警備保障など、異業種の企業が介護業界の企業とM&Aを行い、介護事業に参入した例は枚挙にいとまがありません。
■介護業界におけるM&Aのデメリット
もちろん、M&Aはメリットばかりではありません。譲渡側・譲受側のどちらにもデメリットがあります。
M&Aの譲渡側のデメリット
譲渡側から見たデメリットとしては「必ずしも希望価格で売却できるとは限らない」ということです。譲受側と交渉を進めるなかで、当初の希望売却価格を見直さなければならないこともあります。希望価格とともに、最低売却価格を設定しておきましょう。
もう一つのデメリットとして挙げられるのが「従業員が満足できる雇用環境や待遇を得られないこともある」という点です。譲渡側のメリットとして、大きな企業の傘下に入ることで従業員の待遇改善につながると述べましたが、施設の運営方針など待遇以外の面で従業員が戸惑う場面があるかもしれません。
介護業界は人材不足であることから、M&Aののちに従業員を整理するといったことはほとんどなく、雇用はそのまま継続されます。従業員にはM&Aや譲受側の会社について丁寧に説明し、フォローする必要があります。
M&Aの譲受側のデメリット
譲受側のデメリットとしては「M&Aの後に多額の債務が発覚し、簿外債務を負うリスクがある」という点があります。リスクを減らすには、交渉を進めている最中に、しっかり財務状況を調査しておくことが大切です。
また、会社や事業を引き継ぐ際には従業員も引き継ぎます。介護業界はマンパワーに負う部分が非常に大きい業界です。経営陣が変わったことで従業員の大量離職を招かないよう、譲渡側と同様に譲受側も配慮が必要になります。
■まとめ
介護保険法の施行をきっかけに、介護業界は異業種からの算入が積極的に行われています。異業種から算入する企業にとって、既存の中小事業者を傘下に収めることで介護事業が開始できるM&Aは有効な方法です。また、後継者不足や経営面での不安を抱える中小事業者にとっても、M&Aは事業を継続するための助け舟となり得ます。
M&Aによる譲渡、または買収を考えている場合、それぞれのメリットやデメリットを考慮し、M&Aを手がけている専門家に相談しましょう。
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