個人事業主が事業承継する方法を解説!制度を活用した節税対策も忘れずに
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個人事業主の事業承継とは
個人事業主においても、自身の事業を後継者に引き継ぐ「事業承継」は行われます。ここでは、事業承継の手順や法人の事業承継との違いについて解説します。
事業承継で引き継ぐもの
「事業承継」とは後継者に事業を引き継ぐことですが、具体的には個人事業主が持つ「経営権」「経営資源」「物的資源」を引き継ぐことです。
- 経営権…事業を経営する権利
- 経営資源…事業主が培ったノウハウや技術、取引先など
- 物的資源…店舗や設備などの固定資産、売掛金などの債権、借入金などの債務など
法人と個人事業主で異なる事業承継
事業承継で引き継ぐ「3つのもの」は法人・個人事業主で共通しています。しかし「事業承継」の中身が異なります。
法人で経営者が代わって事業承継が行われる場合、経営者が所有する株式を後継者に引き継ぐことで、経営権や法人が所有する物的資産を承継できます。
一方、個人事業主が事業承継を行う場合、現在事業を営む個人事業主は廃業届、後継者は開業届をそれぞれ税務署に出す必要があるほか、個人事業主・後継者ともにさまざまな届出をしなければなりません。また、資産を承継するには贈与・売却・相続のいずれかの方法を採ります。
個人事業主の事業承継の手順
では、個人事業主が事業承継を進める手順を見てみましょう。個人事業主が生きているうちに事業承継を行うケースについて解説します。
①事業承継の方法を決める
先に述べたように、個人事業主が事業承継をする際、所有している資産を後継者に引き継ぐために贈与・売却のいずれかを行う必要があります。詳しくは下記で説明します。
②後継者選び・後継者教育
後継者を決め、経営者としての教育を行います。取引先に紹介したり権限を少しずつ与えたりして、数年かけて後継者に必要なスキルを身に着けさせます。
③廃業・開業手続き、税務手続きなど
後継者に事業承継を行うタイミングが来たら、個人事業主・後継者ともに廃業・開業や所得税・消費税関係の手続きに必要な書類を税務署に提出します。
また、社会保険などの労務関係の届け出や、業種によって必要になる都道府県への営業の許認可申請も必要です。
④屋号引き継ぎ
個人事業主が使っている屋号を引き継ぐ場合は、後継者の開業届に屋号を記載します。また、商号を登記している場合は、法務局で名義変更を行います。
⑤関係者への連絡
取引先などへ経営者が交代したことを知らせます。
個人事業主の事業承継の方法
個人事業主が事業承継を行う方法には贈与・売却・相続の3つがあります。
・贈与(生前贈与)
贈与とは、与える側(贈与者)が受け取る側(受贈者)に無償で事業に必要な資産を与えることです。ここでは、個人事業主が生きているうちに後継者に資産を譲る「生前贈与」を指します。
後継者が個人事業主の親族である場合と親族以外の者である場合の2パターンがありますが、多くは前者のパターンで用いられます。
・売却
個人事業主が事業用資産を後継者に売って譲るという方法もあります。親族内に後継者がおらず、従業員に事業承継をしたり、第三者に事業譲渡を行ったりする場合に用いられます。
・相続
「相続」は個人事業主が亡くなったあと、後継者が資産を引き継ぐ方法です。
個人事業主の事業承継にともなう手続き・申告・納税
ここでは、個人事業主が存命の状態で事業承継を行うにあたって、必要な手続きや申告・納税について解説します。
事業承継時に税務署へ提出する書類
個人事業主(現在の経営者)・後継者が税務署に提出する届出には、下記のようなものがあります。
【個人事業主(現経営者)】
・廃業届出書
・所得税の青色申告取りやめ届出書(青色申告の承認を受けていた場合)
・消費税の事業廃止届出書(消費税課税事業者だった場合)
【後継者】
・開業届
・所得税の青色申告承認申請書(青色申告をする場合)
・青色事業専従者給与に関する届出書(配偶者などの家族に事業を手伝ってもらい、給与を払う場合)
許認可・社会保険・労働保険などに関する手続き
事業承継の際、税務署以外の公的機関にも手続きが必要になることがあります。
- 営業の許認可…飲食業や建設業など、事業を営むために許認可が必要となる場合。事業所がある管轄の都道府県などに、後継者の名前で申請を出します。
- 雇用保険や社会保険など労務関係…従業員を雇っていて保険に加入する義務がある場合。年金事務所やハローワークなどに、後継者の名前で届け出を出します。
- 屋号の登記…屋号を登記している場合、法務局で名義変更の手続きをします。
個人事業主の事業承継にともなう申告・納税
個人事業主が事業承継を行うと、個人事業主(現経営者)または後継者に税金が課され、課された人は税務申告と納税を行います。
・贈与
贈与を行った場合、事業用資産を引き継いだ後継者に贈与税が課されます。後継者は贈与税の申告と納税を行います。1月1日〜12月31日に行われた贈与に対して贈与税の計算を行い、原則として翌年2月1日〜3月15日に申告・納税を行います。
なお、事業用資産の贈与に対する贈与税は、資産から債務を差し引いた額が課税対象になります。この額から基礎控除額110万円を差し引いた額に、決まった税率をかけて税額を出します。つまり、課税対象額が110万円より少なければ贈与税はかかりません。
・売却
売却によって事業用資産を後継者に引き継いだ場合、売却によって個人事業主が得た利益に所得税と市民税が課せられます。個人事業主は確定申告時に売却益も含めて税金の計算をし、納税をします。
・相続
相続が行われた場合、事業用資産を含むすべての資産に対し、相続した後継者には相続税が課せられます。後継者は相続税の申告・納税を行います。
相続税の申告・納税は相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に、後継者が住んでいる場所を管轄する税務署に行います。
事業承継時の税負担を抑える方法
事業承継時にはさまざまな税がかかり、特に後継者には大きな負担となります。ここでは、後継者の税負担を減らす方法を解説します。
個人版事業承継税制の活用
個人版事業承継税制とは、相続や贈与で個人事業主の事業承継が行われ、後継者に贈与税・相続税が発生した場合に、手続きをすることで納税が猶予されるものです。さらに条件を満たせば、最終的に猶予された税金の一部または全額が免除されます。
この制度が活用できるのは、事業用の宅地・建物・営業用自動車・設備などです。また、現経営者・後継者に要件があるほか、後継者は都道府県から経営承継円滑化法の認定を受ける必要があります。
相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税制度とは、子や孫に対して累計2,500万円までの贈与については贈与税を非課税とし、贈与者が亡くなった際に相続税の課税対象とするというものです。
この制度を利用するには、贈与税の申告書を提出する際に相続時精算課税選択届出書などの書類を提出する必要があります。この制度を選択すると、「1年間で行った贈与の金額が110万円以下なら非課税」という贈与のルール(暦年課税)は使えなくなります。
小規模宅地等の特例の活用
「小規模宅地等の特例」とは、一定要件を満たす宅地を相続する際、宅地の相続税評価額を減額できるという特例です。居住用の宅地(特定居住用宅地等)のほか、事業を営むための宅地(特定事業用宅地等)も対象です。
特例の適用を受けるには、相続税の申告期限までに後継者が事業を引き継いで継続していることや、その宅地を所有することといった要件があります。
ただし、特定事業用宅地等を相続して「小規模宅地等の特例」を活用する場合、個人版事業承継との併用ができないため、注意が必要です。
まとめ
個人事業主の事業承継は、税務署をはじめ公的機関にさまざまな届け出を出す必要があります。また、事業承継の方法に応じて税金が課せられることもあります。
公的制度や税制の特例を活用して、税金を抑えることができますが、細かく条件が設定されており、独力で手続きを行うのは難しいです。税理士など専門家に相談しながら手続きを進めましょう。
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