M&Aで会社の借入金や個人の連帯保証はどうなる? M&Aと借入金の関係とは
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■M&Aの2つの手法である株式譲渡と事業譲渡
M&Aの代表的な手法に「株式譲渡」と「事業譲渡」があります。M&Aを行うことで会社の借入金や経営者の連帯保証が買い手側の会社に引き継がれるのかどうかは、どちらの手法でM&Aを行うかによって異なります。そこで、まずは株式譲渡と事業譲渡について簡単に解説します。
株式譲渡とは株式を譲渡すること
「株式譲渡」とは、売り手の株主が買い手に保有する株式を譲渡することで、買い手が売り手の経営権を握る手法です。具体的には「相対取引」「市場買い付け」「公開買い付け(TOB)」といった方法で株式譲渡が行われます。
・相対取引
買い手が売り手の株主と直接取引し、株式を取得する方法です。売り手が非上場の場合はこの方法で株式譲渡が行われます。
・市場買い付け
売り手が株式市場に上場している場合に用いられる方法です。買い手は証券取引所が開設している取引市場を通じ、売り手の株式を買い集めます。
・公開買い付け(TOB)
買い手が市場を通さずに、売り手の株式を買い集める方法です。買い手は買い付ける株式の価格や株数などを株主に告知し、同意した株主は保有する株式を買い手に譲渡します。
株式譲渡によるM&Aは、売り手にとってスピーディに手続きができるメリットがあります。株式譲渡は原則、株主総会の決議を必要としないからです(特別決議が必要となるケースもある)。また、譲渡後も買い手企業の子会社というかたちで会社の存続が可能となり、従業員を守ることにつながります。
事業譲渡とは特定の事業を譲渡すること
「事業譲渡」とは、売り手が事業の一部、またはすべてを買い手に譲渡することです。買い手企業は譲渡代金を売り手企業に支払います。売り手の全事業を譲渡する「全部譲渡」と、一部の事業だけを切り離して譲渡する「一部譲渡」があります。
事業譲渡では事業は譲渡されますが、売り手の法人格は存続できます。また、売り手は社内に残しておきたい事業と切り離したい事業を整理し、後者だけを譲渡することができます。譲渡で得た代金は、事業資金として活用することも可能です。
さらに、事業譲渡では、譲渡する資産や負債を売り手と買い手で協議して決めることができます。売り手に負債がある場合でも、買い手が希望する資産を受け取れるように協議することで、事業の譲渡先が見つかりやすくなります。
■M&Aで借入金はどうなる?
M&Aの際、売り手の借入金はM&Aの手法によって買い手に引き継がれる場合と、引き継がれない場合があります。それぞれのケースについて見てみましょう。
株式譲渡では借入金を引き継がせられる
株式譲渡によって、売り手の経営権は買い手に移ります。その際、売り手の資産や債務も買い手に引き継がれるため、借入金は買い手の債務となります。買い手は株式譲渡によって債務を引き継いだあと、借入金を返済する必要があります。
中小企業の場合、金融機関や公的機関から借り入れるほか、経営者や役員から借り入れる「役員借入金」もよく活用されます。役員借入金も株式譲渡にともなって買い手から売り手に引き継がれ、買い手は売り手の経営者や役員に役員借入金を返済します。
しかし、買い手にとって、譲渡代金に加えて役員借入金を返済することは負担となります。譲渡の条件を交渉するなかで、買い手が役員借入金の返済を受け入れないだけでなく、譲渡価額が低くなる可能性もあります。売り手は専門家に相談し、対策を立てることをおすすめします。
事業譲渡では通常、借入金を引き継がない
事業譲渡によるM&Aを行っても、売り手の経営権や資産、負債は動かないので、借入金や役員借入金は通常、買い手に引き継がれません(債権者や買い手の了承を得られれば可能です)。
事業譲渡によって得たお金を売り手がどう使うかは自由です。借入金や役員借入金の返済に充てるか、社内のコアとなる事業への投資に使うかは売り手の判断で決めることができます。
■M&Aで経営者個人の連帯保証はどうなる?
会社、特に中小企業が金融機関などから資金を借り入れる際、経営者個人が連帯保証人になることが一般的です。M&Aを行うことで、売り手の経営者の連帯保証を買い手に引き継げるかどうかは、M&Aの手法によって異なります。
株式譲渡では連帯保証を引き継がせられる
株式譲渡によるM&Aで経営権が売り手から買い手に移ると、売り手は借入金と同様、経営者個人の連帯保証も買い手の経営者に引き継がせることが可能です。ただし、債権者には連帯保証の解除を、買い手には連帯保証の引き継ぎを了承してもらうことが必要です。
株式譲渡の交渉を行う中で、売り手は連帯保証の解除や引継ぎについて、債権者や買い手としっかり話し合っておくことが必要です。
連帯保証の引き継ぎ、つまり連帯保証人の書き換えが申請できるのは、株式譲渡が実行され、代表者変更登記が完了してからです。買い手との譲渡交渉と並行し、債権者に連帯保証解除の交渉を行います。
ただし、連帯保証の引き継ぎには時間がかかります。そこで、株式譲渡を実行する際、買い手企業が連帯保証のついている借入金を債務者に一括返済して、保証をはずす手法をとることもあります。
なお、経営者個人の連帯保証については、2014(平成26)年2月から運用が始まった「経営者保証に関するガイドライン」で、起業や新たな事業展開などを行う際に経営者個人の連帯保証が妨げにならないようルールが定められています。
ガイドラインでは、売り手の経営者がM&Aによって形式的・実質的に経営から退く場合、債権者である金融機関は売り手の経営者の保証債務を売り手の新たな経営者に引き継がせないよう求めています。
債権者は売り手の経営者の連帯保証を解除するとともに、買い手とその経営者に対しては、経営者個人の連帯保証に頼らない融資の方法を提案することが望ましいとされています。また、売り手の経営者は、金融機関に対してM&Aについて丁寧に説明しなければなりません。
事業譲渡では通常、連帯保証を引き継がせられない
事業譲渡は特定の事業を譲渡するだけで、会社の経営権が移るわけではないため、連帯保証は通常、売り手に残ります(債権者や買い手の了承を得られれば、連帯保証を引き継いでもらうことは可能です)。
売り手は事業を譲渡して得た代金を、連帯保証の対象となっている借入金の返済に充てることができます。つまり、譲渡代金次第で借入金を圧縮もしくは、完済することも可能となるでしょう。
■まとめ
M&Aによって、売り手の借入金や経営者個人の連帯保証が買い手に引き継げるかどうかは、M&Aの手法によって異なります。経営権が買い手に移る株式譲渡では、借入金や個人保証も売り手側から買い手側に引き継ぐことができます。一方、売り手の経営権の移動を伴わない事業譲渡では通常、借入金や個人保証は買い手側に引き継がれません。
また「個人保証に関するガイドライン」で、経営者個人の連帯保証がM&Aの妨げにならないよう留意すべきとされていることから、株式譲渡においても連帯保証が解除され、買い手側に引き継がれないケースがあります。
M&Aを進めるうえで借入金や経営者個人の連帯保証が気になる場合は、専門家に相談しながら対策を講じましょう。
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